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釧路地方裁判所 昭和59年(わ)289号 判決

本籍

釧路市武佐一丁目七番

住居

同 栄町一二丁目一番地

会社役員

高橋房一

昭和二〇年一一月五日生

本店の所在地

釧路市栄町一二丁目一番地

法人の名称

株式会社高房

代表者の住居

釧路市浦見六丁目一番一一号 コーポラスタカハシ

代表者の氏名

新田稔

右高橋房一に対する常習賭博幇助、所得税法違反、法人税法違反、株式会社高房に対する法人税法違反各被告事件について、当裁判所は、検察官奥村丈二出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人高橋房一を懲役一年六月及び罰金一、二〇〇万円に、被告人株式会社高房を罰金二、〇〇〇万円に処する。

被告人高橋房一においてその罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間(端数は一日に換算する)、同被告人を労役場に留置する。

被告人高橋房一から、釧路警察署で保管中のポーカーゲーム機二台(店番二、一一)(釧路地方検察庁昭和六〇年領第三〇号の2、7)を没収する。

理由

(罪となるべき事実)

第一  被告人高橋房一は、釧路市栄町一二丁目一番地においてゲーム機リース業等を営むものであるが、自己の所得税を免れようと企て、収入記録を破棄し、事業により得た利益を仮名普通預金口座に入金し、あるいは、仮名定期預金として蓄積する等の不正の方法により所得を秘匿した上、昭和五七年分における実際の総所得金額が八、七〇八万六、七五二円であり、これに対する所得税額が五、〇一三万八、五〇〇円であったのにかかわらず、右所得税の確定申告期限である昭和五八年三月一五日までに同市幣舞町三番一一号所在の所轄釧路税務署長に対し所得税確定申告書を提出しないで右期限を徒過し、もって、不正の行為により同年分の所得税額五、〇一三万八、五〇〇円を免れ、

第二  被告人株式会社高房は、同市栄町一二丁目一番地に本店を置きゲーム機リース業等を事業目的とするものであり、被告人高橋房一は、同会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括していたものであるが、右被告人高橋は、同会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、収入記録を破棄し、事業により得た利益を仮名普通預金口座に入金し、あるいは、仮名定期預金等として蓄積する等の不正の方法により所得を秘匿した上、

(1)  昭和五八年二月一日から同年九月三〇日までにおける事業年度の実際の所得金額が七、九九四万三、九四九円であり、これに対する法人税額が三、二九三万六、一〇〇円であったのにかかわらず、右法人税の確定申告期限である同年一一月三〇日までに前記所轄税務署長に対し法人税確定申告書を提出しないで右期限を徒過し、もって不正の行為により同会社の右事業年度の法人税額三、二九三万六、一〇〇円を免れ、

(2)  同年一〇月一日から昭和五九年九月三〇日までにおける事業年度の実際の所得金額が一億〇、八〇七万三、九八一円であり、これに対する法人税額が四、五八一万一、六〇〇円であったのにかかわらず、右法人税の確定申告期限である同年一一月三〇日までに前記所轄税務署長に対し法人税確定申告書を提出しないで右期限を徒過し、もって不正の行為により同会社の右事業年度の法人税額四、五八一万一、六〇〇円を免れ、

第三  被告人高橋房一は、前記のように被告人株式会社高房の代表取締役として同社の業務を遂行していたものであるところ、岩崎護ほか一名が共謀の上常習として昭和五九年一〇月一日午前一一時二三分ころ釧路市城山二丁目三七番四一号所在の喫茶店「薔薇絵亭」において賭客の手鴎悦郎ほか一名を相手方として同店内に設置したポーカーゲーム機二台(釧路地方検察庁昭和六〇年領第三〇号の2、7)を使用し金銭を賭けて画面に現れるトランプカードの絵柄の組合わせ等により勝負を争う方法の賭博をするに際し、その情を知りながら、同年六月中旬ころ、同社の右ポーカーゲーム機を同店に搬入して貸与し、もって右岩崎らの前記犯行を容易ならしめてこれを幇助し

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人高橋房一の検察官に対する昭和六〇年一〇月一八日付供述調書

一  手塚暉雄の司法警察員、検察官に対する各供述調書

判示第一、第二(1)、(2)の各事実につき

一  被告人高橋房一の当公判廷(第五回公判)における供述

一  被告人高橋房一の検察官に対する同年九月二六日付、同年一一月五日付各供述調書

一  被告人高橋房一の大蔵事務官に対する質問てん末書一五通(後記日付の四通を除いたもの)

一  被告人高橋房一作成の上申書九通

一  大蔵事務官作成の調査事績報告書四通(記録証第9、13ないし15号。以下、番号だけで記載)

一  高橋結花、畠山幸雄、牧野良一(同年一〇月三日付)、長縄信雄の検察官に対する各供述調書

一  手塚暉雄、高橋結花、畠山幸雄、山崎秀男(李秀男こと)、高橋誠、牧野良一の大蔵事務官に対する各質問てん末書

判示第一の事実につき

一  被告人高橋房一の大蔵事務官に対する同年三月二八日付質問てん末書

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(被告人高橋分)

一  釧路税務署長作成の申告所得税の納付状況照会回答書

一  大蔵事務官作成の調査書二二通(379ないし399、401)

一  大蔵事務官作成の調査事績報告書四通(12、400、423、458)

一  牧野良一(同年九月二九日付、同年一〇月一日付、同月九日付)、高橋国治の検察官に対する各供述調書

判示第二(1)、(2)、第三の各事実につき

一  新田稔(昭和五九年一二月三日付、謄本)、吉川浩一(同年一〇月二六日付)の検察官に対する各供述調書

一  新田稔の司法警察員に対する供述調書(謄本)

判示第二(2)、第三の各事実につき

一  岩崎護の検察官に対する同年一〇月一六日付供述調書(謄本)

判示第二(1)、(2)の各事実につき

一  被告人株式会社高房代表者新田稔の当公判廷における供述

一  被告人高橋房一の大蔵事務官に対する昭和六〇年二月五日付、同月六日付、同月八日付各質問てん末書

一  登記官作成の登記簿謄本(同年三月二二日付)

一  検察事務官作成の捜査報告書二通

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(被告人会社分)

一  釧路税務署長作成の法人税の納付状況照会回答書

一  大蔵事務官作成の調査書三一通(17ないし45、47、75)

一  大蔵事務官作成の調査事績報告書五通(7、8、10、46、76)

一  新田稔(同年一〇月二一日付)、滝川清和の検察官に対する各供述調書

一  新田稔の大蔵事務官に対する質問てん末書二通

判示第二(2)の事実につき

一  大蔵事務官作成の調査事績報告書一通(11)

一  黒川寿夫(二通)、広田明男、佐々木隆一の検察官に対する各供述調書

一  黒川寿夫の大蔵事務官に対する質問てん末書

判示第三の事実につき

一  第一回公判調書中の被告人高橋房一の供述部分

一  被告人高橋房一の当公判廷(第四回公判)における供述

一  被告人高橋房一の検察官に対する昭和五九年一二月一一日付、同月一七日付、同月一八日付各供述調書

一  被告人高橋房一の司法警察員に対する同月一日付、同月四日付、同月五日付、同月一四日付(四丁綴りのも)の)各供述調書

一  手嶋悦郎、二色榮次、内藤武、新田稔(昭和五九年一一月二九日付、同月三〇日付)(以上いずれも謄本)、岩崎護(同年一二月一日付)、吉川浩一(同日付)の検察官に対する各供述調書

一  岩崎護(三通、同年一〇月二日付、同月二九日付は謄本)、吉川浩一の司法警察員に対する供述調書

一  岩崎護の司法巡査に対する供述調書(謄本)

一  司法警察員ら作成の現行犯人逮捕手続書四通

一  司法警察員久保田修作成の差押調書

(累犯前科)

被告人高橋房一は、

(1)  昭和五二年四月二七日釧路地方裁判所で傷害罪により懲役一〇月(執行猶予三年、のちに取消)に処せられ、昭和五四年一一月一六日右刑の執行を受け終り、

(2)  昭和五三年六月一六日同地方裁判所で銃砲刀剣類所持等取締法違反、器物損壊罪により懲役八月に処せられ、昭和五四年一月一六日右刑の執行を受け終った

ものであって、右は検察事務官作成の前科調書によりこれを認める。

(法令の適用)

判示第一 所得税法二三八条一項、二項(懲役と罰金を併科)

判示第二(1)、(2) 法人税法一五九条一項(懲役刑選択)

判示第三 刑法一八六条一項、六二条一項

累犯加重 刑法五六条一項、五七条(判示第一、第二(1)について前記(1)、(2)の前科、判示第三につき前記(1)の前科)

法律上の減軽 刑法六三条、六八条三号(判示第三につき)

併合罪の処理 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(最も重い判示第一の罪の刑に加重)

労役場留置 刑法一八条

没収 刑法一九条一項二号、二項本文

被告人株式会社高房

判示第二(1)、(2) 法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項

併合罪の処理 刑法四五条前段、四八条二項

(量刑の事情)

本件は、個人でゲーム機リース業等を営んでいた博徒組織の組長である被告人高橋が、事業利益を仮名定期預金として蓄積するなどの不正の方法により所得を秘匿し、確定申告書を所轄税務署長に対し提出しないで所得税約五、〇一三万円を免れ、その後会社組織に変更して自ら被告人株式会社高房の代表取締役になった後においても同社の業務に関し同様の方法をとり続け、被告人会社が二事業年度にわたり法人税合計約七、八七四万円を免れ、さらに喫茶店経営者らが店舗内設置のポーカーゲーム機を使用して客に金銭を賭けさせて常習賭博をする際、被告人高橋が右経営者にその情を知りながらゲーム機二台を貸与して右常習賭博を幇助したという事案である。脱税についてみると、その動機は、財産を蓄積して将来の事業拡張に備えようとしたものであって同情に値するものではないこと、その態様については、ゲーム機関係の収入について帳簿類を一切作成せず、リース料の計算書等も直ちに破棄し、信用組合に多数の架空名義の定期預金を設定するなどしたうえ、確定申告を全く怠ったという悪質なものであること、脱税額も合計一億二、八八八万円余りの高額に及んでいることが指摘できるのであって、本件は誠実に納税義務を果している大多数の国民を愚弄するともいえる極めて重大な犯行であるといわなければならない。また、常習賭博幇助についても、営業の一環として行ったものであり、犯情必ずしも軽微なものではない。さらに、被告人は、昭和五二年と五三年に懲役刑に処せられて服役した前示累犯前科のほか、懲役・罰金前科五犯を有している。

以上のような、本件各犯行の罪質・態様・結果、被告人高橋の前科等に徴すると、被告人らの刑法責任は重大である。したがって、被告人高橋が現在反省の情を示していること、被告人らが所得税・法人税の本税のほか加算税約四、六〇〇万円について担保を提供して換価の猶予を受け、現在分割して納付しつつあること、被告人高橋は組織から離脱したい意向も有していることなど、被告人らに有利な諸点を十分に斟酌しても、主文の量刑はやむを得ないところであると思料する。

(裁判官 中西武夫)

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